秋の気持ちよい気候ですね。遠出したくなる季節です。
旅先でも美術館に行くことが多い私ですが、観光と合わせておすすめしたいのが福岡アジア美術館です。
福岡市の中心地・天神から地下鉄で一駅の中洲川端駅直結の博多リバレインモールの7Fにある美術館で、
「あじび」の愛称で地元では親しまれています。
また美術館前にある川端通商店街は、博多の雰囲気を楽しみながら名物グルメも楽しめる便利なスポットです。
もちろん素晴らしいのは立地だけでなく、美術館のコレクション!
現在開催中の「福岡アジア美術館開館25周年記念 ベストコレクションⅡ―しなやかな抵抗」では、
「世界で唯一のアジアの近現代美術を扱う美術館」にふさわしいコレクションから選りすぐりの作品を
見ることができます。昨年開催された第一弾の展覧会も大好評だったそうです。
会場を入ると、画面いっぱいに描かれたスキンヘッドの男性の群像がまず目に入ります。
90年代初頭、天安門事件(1989年6月4日)の余波のなかで、中国社会の不条理や不安感を皮肉に表現する態度を示した
「シニカル・リアリズム」の代表的作家、ファン・リジュン(方力鈞)の油彩です。
美術好きなら、どこかで見たことある作品ではないでしょうか。
さらに進むと、今回の展覧会のポスターにもなっている作品が現れます。
この駱駝はイスラームの聖地メッカの方向を向き、イスラームの礼拝と同様に絨毯にひざまずいています。
イスラームでは、ラクダは預言者ムハンドマドの乗り物であり、アラブの富の象徴とされるのに対して、
キリスト教では、重い荷物に耐える姿からラクダは人類の罪を背負ったキリストにたとえられているそう。
この古から東西を結んできた駱駝を媒体にして、宗教と欲望という壮大なテーマを表現しています。
迫力ある作品で言えば、リン・ティエンミャオ(林天苗)《卵 #3》のインスタレーションにも圧倒されました。
「女の手仕事」と見なされる傾向にある綿や絹の糸を巻きつけたものを用いた作品です。
性別を示す部分を消去した出産後のアーティスト自身の写真が天井から吊るされ、
糸を巻きつけた球体は女性が一生のうち排出する卵子を表しています。
「女性らしさ」と「女性であることの不自由さ」を考えさせられました。
メッセージ性の強さでいえば、リー・ダラブーの《伝令》も印象に残りました。
比較的小さな展示室の壁に掛けられた少年少女の写真は、1970年代後半のカンボジアのクメール・ルージュ政権下で
働くことを強要され、後に処刑された子供達の肖像です。写真の隣には彼らの伝えたメッセージが並び、
中央のスピーカーからは当時の電報や手紙を読み上げる声が響いていました。
さらに、そこには無関係の少年少女2人の写真があえてまぎれこんでいます。
さまざまな情報が展示室の中で交錯し、鑑賞する側がそれをどう受け止めるかによって
作品の持つ意味合いさえ変わるような気がしました。
展覧会では、今回ピックアップした作品を含め計16点が展示されています。
いずれも見応えがある作品で、それがコレクション展として見ることができるのも「あじび」ならでは。
来年の4月まで開催されているので、まだまだしばらく楽しむことのできる展覧会です。
―しなやかな抵抗
2024年9月14日(土)-2025年4月8日(火)
福岡アジア美術館 7階 アジアギャラリー
観覧時間 9:30〜18:00(金曜・土曜は20:00まで) ※ギャラリー入室は閉室30分前まで
休館日 毎週水曜日、12月26日〜1月1日